
近年、多くの企業から「労働基準監督署の調査が以前より厳しくなっている」との声を耳にします。
実際、その印象は間違いではありません。
2024年から2026年にかけての労働部行政処分データを分析すると、行政の重点は従来の「労働時間」や「残業代」だけではなく、セクシュアルハラスメント対策、職場のハラスメント防止、テレワーク下の労務管理へと大きく広がっています。さらに、税務当局や労働保険・健康保険機関とのデータ連携も進み、企業に求められるコンプライアンスの水準は年々高まっています。
本記事では、過去3年間の行政処分の動向から、企業が今押さえておくべきポイントを分かりやすくご紹介します。
1.行政処分件数は3年間で2倍以上に増加
2024年初めには、全国の行政処分件数は月間約500件程度でした。
しかし2026年半ばには月1,100件を超え、この2年間で件数は2倍以上に増加しています。
つまり、労働監督は一部の企業だけが対象となるものではなく、すべての企業が日常的に向き合うべき経営リスクになっていると言えるでしょう。
2.企業が最も指摘を受けやすい4つの違反項目
① 労働時間・残業代に関する違反
依然として最も多い違反は、労働時間管理や残業代の未払いに関するものです。
フレックスタイム制度や柔軟な勤務制度を導入している企業でも、
- 残業申請の運用
- 労働時間の認定
- 残業代の計算
といった部分で不備が見つかるケースが少なくありません。
② 出退勤記録の管理
近年、監督機関が特に重視しているのが出退勤記録です。
特に以下の点がチェックされています。
- 毎日の勤怠記録があるか
- 分単位で記録されているか
- テレワークでも適切に管理されているか
LINEやTeams、メールなどを活用した働き方が一般化した現在では、企業には従来以上に厳格な勤怠管理が求められています。
③ セクシュアルハラスメント防止体制
2024年の「男女就業平等法」改正以降、この分野の行政処分は大幅に増加しています。
企業には、防止規程を整備するだけでなく、
- 相談窓口の設置
- 適正な調査体制
- 必要に応じた法定の届出・対応
まで含めた実効性のある制度構築が求められています。
社内での話し合いだけで終わらせた場合でも、法令違反と判断される可能性があります。
④ 職場ハラスメント(パワーハラスメント等)対策
この2年間で最も増加率が高いのが、職場における不法侵害(パワーハラスメント等)に関する違反です。
現在では企業に対して、
- 防止計画の策定
- 相談窓口の設置
- 調査手順の整備
- リスク評価の実施
などが求められています。
制度そのものを整備していない場合は、実際にハラスメント事案が発生していなくても行政処分の対象となる可能性があります。
3.この3年間で変化した労務コンプライアンスの流れ
2024年:男女就業平等法改正への対応
企業には、従来以上に実効性のあるセクシュアルハラスメント防止体制の整備が求められるようになりました。
2024年後半:「見えない労働時間」の取締り強化
行政は、
- 業務終了後のLINEによる指示
- テレワーク
- メッセージアプリでの業務対応
- 未申告の残業
などを重点的に確認するようになりました。
業務上の指示や対応であれば、勤務時間として扱われる可能性があります。
2025年:職場ハラスメント対策が重点監督項目へ
これまで啓発中心だった職場ハラスメント対策は、本格的な監督対象となりました。
社内規程や対応体制が整備されていない企業は、行政処分のリスクが大きく高まっています。
2026年:行政機関によるデータ連携が本格化
現在は、
- 労働部
- 労働保険局
- 健康保険署
- 財政部(税務当局)
が情報を相互に照合し、
- 高額給与の過少申告
- 各種手当の不一致
- 労働保険・健康保険の加入内容
- 所得申告との整合性
などを確認する体制が進められています。
外資系企業や海外からの駐在員を受け入れている企業は、給与・手当の設計について特に注意が必要です。
4.企業が今すぐ取り組むべき3つのポイント
コンプライアンスリスクを低減するため、まずは次の3点を確認することをおすすめします。
✔ 労働時間管理を見直す
- 残業申請制度を整備する
- 勤怠記録を適切に保存する
- 「見えない残業」を発生させない仕組みを作る
✔ 必要な社内規程を整備する
就業規則だけでなく、
- セクシュアルハラスメント防止規程
- 職場ハラスメント防止規程
- 相談・調査手続
なども併せて整備しておくことが重要です。
✔ 給与・手当の申告内容を確認する
特に駐在員や外国人従業員、高額給与者については、
- 給与
- 源泉徴収
- 労働保険・健康保険
- 各種手当
これらの内容に相違がないか、定期的に確認することをおすすめします。
おわりに
ここ数年の行政処分の動向から分かるのは、労働監督は単に「労働時間を確認する」ものから、「企業の労務管理体制全体を評価する」ものへと変化しているということです。
今後は、労働時間や賃金管理だけでなく、セクシュアルハラスメント対策、職場ハラスメント防止、そして給与・社会保険・税務の整合性まで含めた総合的なコンプライアンス体制の構築が、企業経営においてますます重要になるでしょう。
制度を早めに整備しておくことは、行政処分のリスクを軽減するだけでなく、企業の信頼性やガバナンス向上にもつながります。


