台湾で注目された労働裁判の判決をわかりやすく解説します。
今回は「業務性質変更」を理由にした解雇が、果たして合法なのかを争った裁判の判決をご紹介します。経営者にとっても重要な示唆が多いケースです。

事件の概要

2022年5月31日、新北地方法院で「110年度重勞訴字第18號」として下された判決。
原告の黃氏は、台湾の嘉〇〇〇〇〇股份有限公司に勤務していました。
2021年8月31日、会社側から「業務性質の変更に伴う減員」を理由に解雇を通告されます。

しかし黃氏は、

  • 実際には業務内容に大きな変化はない
  • 会社の解雇理由は曖昧で不当

と判断し、解雇無効と給与・退職金の支払いを求めて裁判を起こしました。

双方の主張

原告(黃氏)側

  • 業務内容に大きな変化がなく、解雇理由は成立しない
  • 他部署での雇用継続が可能で、会社の配置替え義務(安置義務)も果たされていない
  • 過去に複数部門で勤務経験があるので、再配置は十分可能

被告(嘉〇〇〇〇〇股份有限公司)側

  • 経営戦略の変更に伴う人員整理はやむを得ない
  • 原告の職務は他部署で代替が難しく、配置替えは困難
  • 他部署の求人は原告とは無関係であり、安置義務は履行している

裁判での証拠

裁判では、給与明細、労使調停の記録、過去の勤務履歴、人事異動記録など、幅広い証拠が検討されました。
特に「他部署への配置替えが可能であったかどうか」が争点となりました。

判決のポイント

裁判所は、以下の点から原告と会社の雇用関係は継続していると認定し、解雇は不当と判断しました。

  • 雇用関係の存続
    → 原告は引き続き従業員として扱われる
  • 未払賃金の支払い
    → 2021年9月1日以降、復職日まで毎月129,770元を支払う
  • 退職金積立
    → 同期間中、毎月7,902元を退職金口座に積み立てる
  • 訴訟費用は会社負担
  • 仮執行免除の可能性
    → 担保を提供すれば仮執行義務は免除

ここから学べること(経営者向け)

この判決からわかるのは、経営上の理由だけで解雇は簡単にできないということです。

  • 「業務性質変更」という理由だけでは不十分
    → 実際に業務が変化しているか、合理的かどうかが問われます
  • 労働者の再配置(安置)義務を適切に履行しているかも重要
    → 他部署での勤務の可能性を検討し、証拠として残すこと
  • 解雇理由の説明責任を果たすこと
    → 曖昧な理由は不当解雇と判断されるリスク

経営戦略や人員整理は会社にとって必要なこともありますが、労働法規の遵守と透明性が不可欠です。

まとめ

台湾での労務管理においては、解雇の正当性は非常に厳しく審査されます。
経営者は、単に「業務都合だから」という理由だけで解雇を決めるのではなく、労働者の権利を尊重した手続きを踏むことが大切です。
また労働者側も、自身の権利を守るために証拠を集め、必要に応じて専門家に相談することが重要だと言えるでしょう。

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